英単語"gauge"について調べてみた―綴りと発音の歴史について―

ちょろっと興味本位で調べていたことが意外にも大きく発展してしまったので、ここの記事にさせて頂きます。
題材は英単語の"gauge"です。

この単語、まず皆さんは読めますか?発音記号で書くと/géidʒ/です。そう、「ゲージ」です。日本語でもゲージという言葉はカタカナになっていますね。「計器」「計測器」という日本語に対応しています。
なんだ大した単語じゃないじゃないかとお思いでしょうが、大問題ですよ。だって英語では一般的に"au"と綴ったら発音は「オゥ」です。フォニックスを見てみたら(http://www.phonicsontheweb.com/vowel-combinations.php)、

  • au as in fault, gaunt, fraud, launch, pause, and sauce

ですから、やはり「オゥ」です。日本語ではこちらのサイト(発音と綴りのルール (フォニックス)母音編 -a-)を見てみましたら、
/ɔː/が基本で、例外として/æ/や/ɑː/がありますが、gaugeの/ei/の発音は特殊と分類されています。
なんなんだこの単語は、歴史的経緯か?と思い、毎度おなじみの寺澤芳雄「英語語源辞典」を引いてみました。すると、

語根不詳だが, (Frank.)*galgaからの借入で、OHG galgo 'GALLOWS'との関係を想定する説が有力.
発音については cf. SAFE1(OF ▭sauf).

とあるので、safeを改めて引き直してみますと、

ME sauf ▭(O)F < L salvum uninjured, entire, healthy (It. & Sp. salvo) (以下省略)

という感じで、やっぱりよくわからない。確かにsafeは昔saufという綴りだったらしいし、safeの今の発音は/ei/だけど、だから何なんだというところで腑に落ちない。綴りは近代化したけど、発音は保持されたってこと?でもフランス語の歴史上auの綴りが/ei/となったことってあるのですか?(この辺りは追加調査が必要)

てか、こんだけメジャーな単語なんだから、ネイティブもきっと疑問に思っているに違いない。と思い、仕方ない、「why gauge pronounce」でググったら、こういうサイトが出て来ました(pronunciation - Why is "gauge" spelled with a 'u'? - English Language & Usage Stack Exchange):

(「フランス語辞典」の著者エミール・リトレ(1801〜1881)の言うところを受けて)
So, it is seen that gauge, at the time it was imported from Old French into Middle English, coexisted with a lot of words of similar meaning and close spelling. Thus, probably gauge took its writing from gauge and its pronunciation from a mixture of those words (gauge, jale, gallon).

つまりなんだ、gaugeは古フランス語から中英語に輸入され、たくさんの似たような意味の単語や綴りの近い単語と混在していたと。だからきっと、gaugeの発音はgaugeと意味や綴りの似た別単語からやってきたんだと思われる、ということか。なんだgoの過去形wentと似たような奴か。時制変化の混在や綴字法のルネサンス、それに伴う誤綴とかは聞いたことあったけど、このパターンは初めてだわ。
因みに、このサイトにはこの後に面白いことが書いてありまして、

Regarding the issue of whether the initial consonant is a soft or hard g, it is funny enough to note that while the English word, with it hard g, comes from the Old French (which had soft g), the Modern French uses gauge as a nautical term, imported from the English, with its hard initial g.

読んで「確かに」と思わず言ってしまいました。このgaugeという単語、gの文字に対して2種類の発音が混在しているではありませんか。英語においては、gの発音は本来は/g/の音「ガ・ギ・グ・ゲ・ゴ」ですが、フランス語由来の場合は/dʒ/の音「ジャ・ジ・ジュ・ジェ・ジョ」になることは知られています。なので、その単語においてgがどちらで発音されているかで、その単語の由来が予測できたりするわけです。しかし、この単語にはその2つの発音が混ざって存在している。元々海事用語として当時フランス語から借用されて英語になったのだから、/dʒ/の音を保っていてもいいのに、語頭のgだけ/g/の音なのは、やはりリトレの言う通り、発音の由来が別にあるのかもしれません。


結論:gaugeって単語はちょっとおかしい。スイマセンこんな結論しか出せないで。

左の辞書は、私が小学校低学年の時に誕生日プレゼントとして買ってもらった「小学生のためのレインボー英和・和英辞典」の第3版(「レインボー英和・和英辞典 改訂第3版」)です(僕が買ってもらったのは初版でした)。この辞書は対象が小学生にもかかわらず、中学生になっても十分対応できるだけの単語収録数で、大変重宝しました。
何故この辞書をここで紹介したかといえば、この辞書はフォニックスに対応しているからです。フォニックスの教材というと、ひたすらに綴字法の決まりを覚えていくものばかりですが、別に専用のワークを買わなくても、この辞書を1冊持っていれば、自然とフォニックスの知識は見について行くと思います。発音記号とカタカナ表記が併記されているのも、幅広い学習層に対応できて嬉しいですね。(あくまで僕の持っていた初版の話なので、最新版はどうなってるかわかりませんので、ご購入の際は書店でご確認下さい。)
あの辞書は、塾講師時代に英語が苦手な中1の生徒に貸したっきりになってしまってますが、まぁどこかで役立っていることを祈るばかりです。