「止」に関する漢字4選

以前、「癶」は「止」を左右に2つ並べた部首であることを紹介しました。
その時に、「止」を上下に2つ並べた漢字が「歩」であるということを述べました。
lar-lan-lin.hatenablog.com

今回は、「歩」を始めとした、「止」を含む漢字をいくつか紹介いたします。

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「歩」は、先に述べた通り、「止」を上下に2つ並べたものが由来です。

左足の足あと止+右足のあしあと少。左右の足あとを連ねて歩行の意とする。
白川静『字通』, p1431)

「歩」の字体には、上の「止」が「山」に替わったものがあります。
補空の点が打たれたものもありますね。
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「正」も下半分は「止」です。
由来は下記にある通りで、ちょっと意外に感じるかもしれませんが、
時々ぎょっとするような由来を持つ漢字に出会うこともありますので
(「臣」や「民」や「県」など)
それと比べればまだまだ。

一+止。卜文・金文の字形は、一の部分を囗の形に作り、囗は都邑・城郭の象。
これに向かって進む意であるから、正は征の初文。
征服者の行為は正当とされ、その地から貢納を徴することを征といい、
強制を加えて治めることを政という。
(同, p894)

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この字体は、「囗」が「二」の形になったものでしょうか。

「武」については、「戈を止める」という説が有名ですが、
『字通』では俗説として書かれています。
まぁ普通に考えればそうでしょう。
そんなひねくれた由来を持つ漢字は「幸」くらいで十分です。

止+戈。止は趾の形で、步(歩)の略字。
戈を執って前進することを歩武という。
〔説文〕十二下に〔左伝、宣十二年〕「楚の荘王曰く、夫れ武は功を定め、兵を戢む。故に止戈を武と為す」の文を引いて、武を止戈の義とするが、歩武の堂々たることをいう字である。
(同, p1373)

先ほどの「武」の「止」は、「歩」を略したものだと説明されていましたが、
こちらの「歳」については、「歩」が上下に分断されている、とされています。

字の初形は犠牲を割く戉(鉞)の形。
のちその刃部に步(歩)を大小に分けてしるし、歳の字形となった。
従って今の字形は、戉+歩。
(同, p596)

引用した文の後には、どうしてこのような成り立ちの漢字が「とし」を意味するようになったかも記されていました。
それによれば、「歳」は犠牲を割く(=戉)儀式に向かう(=歩)ことを意味し、
その儀式は年に1回行われることから、「歳」そのものに「とし」という意味がついたということでした。

※記事中の画像は、伏見冲敬: 書道大字典, 角川書店, 1974.