goの過去形がwentなのは「4個」を「よんこ」と読むのと同じ(中学生の英語なぜなぜシリーズ その4)

中学英語で納得いかないものランキングの上位に入ってくるのがいわゆる「不規則変化」だと思いますが、その中でもgoの時制変化go - went - goneはその筆頭に入るでしょう。何しろ"go"や"gone"と似ても似つかない"went"が登場するからです。
なぜ"go"の過去形は"went"なのでしょうか?

もともと"went"は別の単語の過去形だった

実は、古くは"go"の過去形は、他の一般動詞と同様に"go"と似た形でした。寺澤芳雄『英語語源辞典』には以下のような記載があります。

OE(引用者註:古英語)では過去形に別語根のēode, ēodonが用いられ,ME(同:中英語)yede, yodeに発達したが,15C(同:15世紀)に(同:イギリス)南部からしだいに,WENDの過去形WENTに取って代わられるに至った.北部では現在形から造られたgaedが用いられるようになった.このように語形変化の一項に別語根の独立語を補充することをsuppletion(補充法)という.

上記にあるとおり、"went"はもともと、「転じる」「行く」という意味の別単語"wend"の過去形でした。"wend"という単語は、現在は古語という扱いで基本的にお目見えする機会はないでしょう。どういう理由なのかはわかりませんが、15世紀に"go"の過去形に、類似の意味をもつ"went"を使うようになり、現在に至っているようです。ちなみに"went"を”go"に取られた形になった"wend"は、過去形を"wended"という規則変化したものに改めたそうです。

日本語での類例

日本語でも上述のような補充法の例があります。一番身近なのは、数字4や7の読みでしょうか。
東アジアの言語では、数字は2種類の読み方があることが多いです。日本語を例に挙げれば、

  • イチ、ニ、サン、シ、ゴ、ロク、シチ、ハチ、キュウ、ジュウ
  • ひ、ふ、み、よ、いつ、む、なな、や、ここの、とう

の2つです。前者は漢字のもともとの読み(音読み)で、後者は漢字が入る前の日本独自の読み(訓読み)ですね。
音読みと訓読みは混ざらないのが普通ですが、4と7については、音読みの中に訓読みの「よん」や「よ」、「なな」が混ざることがあります。
例えば1個、2個と「個」を付けて数えるとき、1個は「イッコ」*1、2個は「ニコ」と読むのが一般的ですが、4個は「よんコ」となり「シコ」と読まれることはありません。
4時や4回も同様です。「よジ」や「よんカイ」と読まれるのが普通で、「シジ」「シカイ」と読まれることはまずないです。これも、"went"同様に、訓読みの「よん」「よ」が音読みの「シ」に代わられる現象です。英語の"went"とは違い、読みが変わるだけであり、また、音読みの「シ」が完全に消えたわけでもありませんが、似た現象には違いありません。
明確な理由は明らかになっているとはいいがたいですが、例えば以下のことが考えられます。

  • 「死」と同音の「シ」を避けた
  • 語感から、1拍の「シ」でなく2拍の「よん」にした(1から数える際はイチ、ニ、サン、シ…となるが、10から数える際はロク、ゴ、よん、サン…となる)

単語レベルで変わったものと言えば、「おとこ」と「おんな」の関係があります。もともと「おとこ」を対をなす単語は「おとめ」であり、語末の「こ」で男性を、「め」で女性を意味していました。他方、「おんな」―これは古くは「おみな」という言葉でしたが―と対をなす単語はいまは使われない「おぐな」であったと考えられ、こちらは語中の「ぐ」で男性を、「み」で女性を意味していました。この2系統の対は奈良時代にはすでに混用が見られたようで、現代では「おとこ」と「おんな」が対として使われています*2


▲「補充法」でググったら見つけた本です。Kindleで0円でしたので私も早速読んでみましたが、より細かいお話を知りたい場合はおすすめです。

前回の記事
lar-lan-lin.hatenablog.com

*1:「イチコ」の「チ」が促音化したもの

*2:「おとめ」の対はなんでしょうか?「ますらお」とかですかね?