ラテン語の名詞変化はこう覚える(その1:"Bravo!"とは失礼しちゃうわ)

ラテン語を学ぶにあたっては、その子孫である言語の知識が役に立つことがある。
例えば名詞の格変化を覚えるには、イタリア語の言葉の決まりを覚えていると大変効率が良い。
イタリア語?と固くなる必要はない。ここではよく聞くイタリア語を例に話を進めよう。

Bravo!

さて、"Bravo"である。
イタリア語で「素晴らしい」という意味で、日本語でも「ブラボー」とすっかりカタカナになっている。
英語として使う場合は、誰彼にでも構わず"Bravo!"と叫んで良いのだが、本場イタリアではそうはいかない。
イタリア語の名詞や形容詞には「性」が存在するからである。


DSC_2783.JPG / imgdive

平たく平たく言ってしまえば、名詞の中には男の名詞と女の名詞があるのだ。
実を言うとラテン語には男性と女性以外にも中性なるものも存在しているが、決して男とも女ともつかないものという意味ではない。
むしろものであっても言葉の上では男であったり女であったりするのだから不思議だ。

ラテン語で「ペン」を意味するstilusは男性名詞だ。
「ノート」を意味するtabulaは女性名詞だ。
「言葉」を意味するverbumは中性名詞だ。

イタリア語に話を戻す。
イタリア語には中性名詞はない。
男性名詞と女性名詞だけであり、数(単数と複数)を含めると下図のように4つの語尾が考えらえる。

  男性名詞 女性名詞
単数
-o
-a
複数
-i
-e

これをbravoに当てはめると次のようになる。

  男性名詞 女性名詞
単数
bravo
brava
複数
bravi
brave

つまり、イタリア語の文法の上では、"Bravo!"という言葉は1人の男性を相手に発せられる言葉なのである。
相手が1人の女性であれば"Brava!"、複数の男性なら"Bravi!"、複数の女性なら"Brave!"である。

男女交じっていたらどうするのかと言えば、基本的には男性に統一し"Bravi!"と言っておくのが普通である。


Marioはイタリアの男性名、Mariaはイタリアの女性名である。

ラテン語の第一・第二変化名詞

何の話だったっけ?そうそう、ラテン語の名詞の格変化でした。
先程紹介したイタリア語の性及び数による語尾変化を踏まえたうえで、以下の変化表をご覧いただきたい。
これはラテン語の名詞の大体を占める第一・第二変化名詞の格変化表である。

単数 男性名詞 中性名詞 女性名詞
主格
-us
-um
-a
呼格
-e*1
-um
-a
属格
-ae
与格
-ae
対格
-um
-um
-am
奪格
複数 男性名詞 中性名詞 女性名詞
主格
-a
-ae
呼格
-a
-ae
属格
-ōrum
-ōrum
-ārum
与格
-īs
-īs
-īs
対格
-ōs
-a
-ās
奪格
-īs
-īs
-īs

なんじゃこのおびただしい数の語尾たちは!格変化が6つ?

そうです、ラテン語は基本の格変化が6つあります。
英語は格変化が代名詞にしか残っていませんが(しかもたったの3つ)、ラテン語にはすべての名詞に6つの格変化があるのです。

でも安心してください。なれればちょろいです。
覚え方にはコツがありますから、それはまた今度お教えしますね。

しかも読者の皆様はこの記事の前半でイタリア語の語尾変化を知ったではありませんか。
それを踏まえたうえでこの表を見ると、何となく特徴が見えますでしょう?

iやoは男性名詞や中性名詞に、aやeは女性名詞に多く含まれていることがわかります。

この感覚はとても大切ですから、ラテン語を習得したい方は是非覚えておいてください。
そもそもイタリア語はラテン語の直系の子孫です。その特徴の多くを受け継いでいるのは当然ですね。

次回は上の表をもとに格変化の規則性を解説します。

次回:ラテン語の名詞変化はこう覚える(その2:格変化 6つあろうが 怖くない)

*1:主格が-iusで終わる場合は-īとなる