hの話(その3:hとc)

前回:hの話(その2:音を失くしたhの役目)


Vegan Double Chocolate Brownie Chunk
Ice Cream /Veganbaking.net


フランス語、イタリア語、スペイン語で、hと中が良いのはcであろう。
cは現在、多くの言語で様々な音を担当している。英語の中だけでも、

  • /k/:camera, cool, cuisine, school
  • /s/:cider, ice, science, machine
  • /tʃ/:chance, cheese, chocolate

の3種類がある。

h meets c

本来、cという文字は/k/の音を担当する文字であった。
実を言うと、これも少し違っていて、ヨーロッパ言語においてCが使われたころは、/k/の他に/g/の音も担当していた。ローマ字のアルファベットがABC/abcであるのに対し、ギリシャ文字のアルファベットがΑΒΓ/αβγなのは、その名残である。
詳細は他の記事に譲るが、ラテン語ではCの他にGの文字を作り/g/の音をgに任せることで、晴れてcは/k/専任になったのであった*1

しかし、時代が進むに連れて、cの持つ音が分化し始め、/k/の他に/tʃ/の音も表すよう迫られた。
そこで、cを使って2つの音を表すにあたりhが用いられた。


Cappuccino / camirisk


イタリア語の祖先は、"ca","co","cu"はそれぞれ/ka/,/ko/,/ku/の音を保持する一方で、"ce","ci"の音を/tʃe/,/tʃi/とした。そのために表せなくなった/ke/,/ki/の音は、"che","chi"に任せることとした。

  • イタリア語のce:violoncello(ヴィオロンチェロ→celloチェロ)
  • イタリア語のci:Sicilia(シチリア)、cappucino(カプチーノ
  • イタリア語のche:maccheroni(マッケローニ→macaroniマカロニ)
  • イタリア語のchi:zucchine(ズッキーニ)、caffè macchiato(カフェ・マキアート)

フランス語及びスペイン語の祖先は、"ch"に/tʃ/の音を任せることとした。現代スペイン語は今でもこれを維持しているが、フランス語ではchの持つ音が変化して、今では/ʃ/の音を担当することとなった。

余談ではあるが、フランス語及びスペイン語でも、"ce","ci"の担う音は変化した。これらはそれぞれ/tse/,/tsi/の音を持つようになり、それによって追い出された/ke/,/ki/の音は"que","qui"が担当することとなった。
やがて"ce","ci"の持つ音は変化し、フランス語では/se/,/si/に、スペイン語では/θe/,/θi/になった。同じスペイン語でも、中南米スペイン語では、フランス語と同様に/se/,/si/で発音される。テレビや電話のなかった大航海時代、海を隔ててしまうと言語も別々の進化をとげることを、スペイン語ポルトガル語を見ると思いますね。

英語は語彙の点でフランス語の影響を大いに受けているため、"ca","ce","ci","co","cu"の音はフランス語と同じ/ka/,/se/,/si/,/ko/,/ku/となっている。

次回:hの話(その4:hの役割が変わった時)

*1:実は完璧には専任になることはかなわなかった。古代ローマ帝国においては人名の種類がとても少なく、アルファベット1文字だけで名前を指すことができた。L.と書けばLuciusを、M.と書けばMarcusを指したが、C.が指す名前はGaiusであり、ここではCは/g/の音を持ち続けたのである。