矢印議論(その1:矢印の起源)


Arrows showing up (Blender) / FutUndBeidl

本記事では、矢印について、その起源を紹介いたします。

※本記事は、『矢印の力』という本を参考に作成されたものですが、
単にこの本の内容を紹介するのが目的ではありません。
次回の記事において、これを背景に矢印の使い方について議論する予定であり、
本記事は、その背景を説明するための存在であることをご了承ください。

なお、同様の情報は、以下のリンク先においても読むことができます。


▲ワールドムック655ビジュアルIDシリーズ4, 矢印の力, ワールドフォトプレス

本記事の目的


cmd.exe / *n3wjack's world in pixels

情報化社会が進むにつれて、多様な背景を持つ人が情報発信を行うようになりました。
とりわけ、近年の情報技術の向上によって、文字や音声だけではなく、
画像や映像などの情報が簡単に発信できるようになっています。

画像や映像などの非言語コミュニケーションは、
文字や音声などの言語コミュニケーションとは異なり、使用者が準拠すべき文法的な決まりはなく、
それゆえ、画像や映像でのコミュニケーションは、より自由な表現が可能であると見做されることがあります*1

しかし、準拠すべき規格がないために、表現に意図しない不明瞭さが生まれ、
意図したとおりにコミュニケーションができないという状況も発生しています。
誰もが絵の意味を読み間違えたり、読み間違えられたりしたことがあると思います。

特に、矢印は、公私にかかわらず、プレゼンテーションからメールまで、幅広い分野で使用されている記号ですが、
その効果については完全な理解があるとは言えず、汎用的な規格や定義等が具体的に定められていません。
多くの人が、なんとなく使っている記号でしょう*2

本記事では、矢印の歴史を振り返りつつ、矢印の持つ効果を整理することを目指します。

矢印が生まれる前


Image taken from page 286 of
'Thrilling Life Stories for the Masses'
/ The British Library

矢印には、対象を指し示す効果があります。
この効果は、指さしの効果が由来であり、矢印が生まれる前は、指さしを図案化したものが使われていました。

指さし行為は、言語と同時に使用され始めたと考えられていますが、これを文献で確認できるのは紀元0世紀からです。
したがって、指さしという行為は、遅くともこのころから使われ始めていたと考えられます。


Lyon flooring / Arenamontanus

一方で、指さし行為と同じ、方向性を示す最古の記号は、矢印ではありませんでした。
方向性を示す最古の記号は、足跡です。
2世紀ごろのトルコの遺跡から、行き先を示すために地面につけられたと見られる、足跡の図が発見されています。
この方法は、世界のほかの場所からも発見されており、今なお使用されることがあります。

その後、指さしの手の形を図案化したもの(「指さし指」)が書物で使用され始めたことが確認されています。
記録のある最古の指さし指は、11世紀の書物に、注釈を書き込む先を示すメモ書きとして登場しますが、
これは後世に後から書き足された可能性があり、必ずしもこのことから使われ始めたとは言えません。

同様の効果を示す図案としては、地図上で用いられた「吹き頭」というものがありました。
これは、風を吹く頭の絵であり、風の吹く向きが方角を示すというものです。

矢印の登場

記号としての矢印は、古代からあったと考えられていますが、
それらは「男性」や「いて座」など、別の意味を示す記号でした。


arrow / byzantiumbooks

方向を示す矢印の登場は14世紀ごろであり、はじめは写実的に描かれた矢が、次第に簡略化され、図案化されていった結果、
現在のような矢印が発生したと考えられています。

矢印は、矢の形から直接発生したとする説の他、
矢の図案を用いた羅針盤の方位磁針から生まれたとする説もあります。

このように発生した矢印は、はじめは、地図などの限られた場面でしか用いられませんでした。
それが、これだけ多くの人の間に広まったきっかけは、科学技術の進歩でした。
科学技術の発展に伴い、様々な分野で多様な矢印が使われるようになりました。
同時に、それぞれの科学分野において、矢印の意味を明確化・規格化することが進められました。
例えば、数学のある分野では関数の定義を意味し、化学の分野では化学変化を意味します。
一方で、様々な機械が発明されると、その動きの方向を示すために矢印が使用されるようになりました。
この分野における確認できる最古の使用例は、1737年の水車の回転方向を示す矢印です。


swissa_jeunesse_gebrauchsanweisung_4
/ shordzi

19世紀に入ると、産業革命により、一般家庭にも機械が導入され始めました。
すると、生活で用いる機械の使い方を説明するマニュアルが作られ、その中で多くの矢印が使用されたのです。
これにより、一般の市民の間にも、矢印という記号が受け入れられ始めたのです。

矢印の意味

矢印には、大きく分けて以下の7つの使用例があります。

  1. 動きの向き:物体が動く方向や、動かす方向
  2. 状態の変化:ある同一の物体の変化
  3. ディメンジョン:距離や数量、重量、時間などを表現
  4. 連結関係:2つの別の物体の関係性を示す
  5. 注意喚起:どこを見るかを指示する
  6. 連続性:手順やステップを示す
  7. 特定の意味:電気を意味したり、リサイクルマークなどに含まれ、特定の意味を持つ

1つの矢印に、上記7つの意味のうち複数が含まれることもあります。
また、「状態の変化」と「連続性」などは、その区別が難しいものもあります。

矢印の形

矢印が一般的な記号になった後でも、しばらくはその形状は似たようなものばかりでした。
しかし、20世紀を過ぎると、より多くの意味を持たせたり、デザインの観点などから、様々な形の矢印が登場しました。

  • たどるべき軌道に沿って曲がった矢印
  • 複雑な動きを示した矢印
  • 立体的な矢印
  • 破線の矢印
  • 二重の矢印

*1:当然ですが、文字や音声と比較して、画像や映像のほうがコミュニケーションツールとして優秀である、と主張したいのではありません。それぞれに長所短所があるはずです

*2:矢印は、「→」「↑」などのように、記号の一種として文字と同様に利用することができることが、一層になんとなく使う要因になっていると思います。