クルマから英単語(その1:「セダン」は「sit down」の早口言葉?)

私が英単語(に限らず、各言語の単語でもOK)を覚えようとするとき、知ってる言葉と紐付けることで、覚えやすく、思い出しやすくするというテクニックを使っています。
日本語には沢山のカタカナ言葉がありますが、これらは元々外来語、多くは英単語から来ていることは承知いただけると思います。現代ではカタカナ言葉を使わずにコミュニケーションを取るのは不可能と言ってもいいでしょう。
そんな身の回りにあふれかえっているカタカナ言葉を、どうして英単語の暗記に使わないでおきましょうか。
このテクニックは大いに有効であると私は信じています。

このシリーズでは、テーマを「クルマ」として、クルマに関連する用語から、様々な英単語に派生して行くことで、英語の語彙を増やしていこうと試みてみます。

早速の第1回目は、「セダン」です(何でまたそんな言葉を選んだ)。
「セダン」というのは、簡単に言うと、クルマの形の種類のひとつです。皆さんに紙と鉛筆をお渡しし、「簡単にクルマの絵を描いてみて下さい」とお願いすると、
多分に多くの人がセダンを描いてくれると思います。ボンネットと、車室と、トランク、この3つの部分がしっかり分かれている4ドアのクルマ、これが「セダン」です。
普通免許を取るために教習所に通ったことがある方なら、教習車の形がそれです。


CELSIOR. / MIKI Yoshihito (´・ω・)

トヨタセルシオも「セダン」である。

さて、この「セダン」という言葉、元々はイタリアで17世紀から18世紀頃に使われていた椅子かご"sedia"(英語では"sedan chair")が由来で、19世紀末から20世紀初頭にクルマの形を指す言葉として使われ始めました。
この言葉の元を辿ると、座るを意味する英単語"sit"や、座席を意味する英単語"seat"の語源となったラテン語"sedēre"に行き着きます。ですから、この記事のタイトルも、これ自体は大嘘ですが、「セダン」と"sit"は関係があるという点では、正しいわけですね(ちょっと強引)。

では、セダンと同じように、"sit"や"seat"と先祖と同じくする英単語を挙げてみましょう。

situation

カタカナでいうと「シチュエーション」です。普段我々も「シチュエーション」と言ってしまいますが、敢えて日本語に直すならば「状況」や「境遇」でしょうか。

reside

発音は/rizáid/、「リザイド」です。この単語を知らなくても、名詞化した「レジデンス」、形容詞化した「レジデンシャル」はどこかで聞いたことあるのではないでしょうか?"reside"の意味は「住む」です。「レジデンス(residence)」は「住宅」を、「レジデンシャル(residential)」は「住宅の」という意味です。

set

これも日本語に直すのが難しいと思うくらい、「セット」というカタカナで日本語に溶け込んでいる言葉です。「置く」や「固定する」という意味です。

settle

発音は/sétl/、「セトル」です。元々は"set"と同じ「置く」という意味でしたが、今では「定住する」「落ち着く」「静まる」という意味で使われます。熟語で"settle down"も良く使われます(意味は「落ち着く」)。名詞化して"settlement"とすると、「和解」や「植民地」という意味を持ちます。"settler"は「植民者、開拓者」となります。


植民を行なっていき、敵の植民地を滅ぼす箱庭系ゲーム「セトラーズ」。

preside

これも、この単語自体は知らなくても、人を表す接尾辞"-ent"をつけて"president"とすると、「議長」「社長」「大統領」という単語になりました。"preside"の意味は「議長を務める、司会進行をする」という意味の動詞です。

saddle

カタカナでは「サドル」です。そうです、自転車のあのサドルです。元々は乗馬する際に載せる「くら(鞍)」という意味です。ところで、自転車で座るところはサドルですが、手で握るところは、足で踏むところはそれぞれ「ハンドル」「ペダル」と呼びますよね。"saddle"の”sad-"の部分は「座る」という意味ですが、"handle"の"hand"は「手」を、"pedal"の"ped-"は「足」を意味します。"pedestrian"は「歩行者」を意味し、カタカナでは「ペデストリアンデッキ」という言葉に含まれています。「ペデストリアンデッキ」をご存知ありませんか?大きな駅で、駅舎の2階からそのまま近くのビルに行くことが出来る、2階の歩道、あれのことです。関東では東京の上野駅、千葉の柏駅、埼玉の大宮駅などにあります。


Pedestrian Deck ペデストリアンデッキ / hi-tlz

写真は広島のアルパーク

今日のおまけ

ところで、「セダン」はイギリスでは"Saloon"と呼ばれます。日本でも「サルーン」という言葉は使いますが、どちらかというと高級車のイメージがありますね。
"Saloon"という言葉がクルマの形を指す用語として用いられたのは20世紀初頭で、この単語の元々の意味は「大広間」という意味です。それが「サロン」や「パブの特別席」という意味を変遷して、今に至るわけです。
この"saloon"の語尾"-oon"には「大きな」という意味があり、「大きな部屋」が"saloon"となったわけです。"-oon"を持つ同様の英単語には、「大きなボール」という意味から派生した"balloon"「風船」や、「大きな殻の卵」という意味の言葉から派生した"cocoon"「まゆ(繭)」、「大きな鎌」という意味から派生した"harpoon"「もり(銛)」などがあります。

 
護衛艦さわゆき / nubobo ハープーン - 護衛艦さわゆき / nubobo

「ハープーン」というと、艦船に備え付けられている対艦ミサイルを思い出します。


参考文献1:池田義一郎: 入試頻出7000英単語の総整理, 洛陽社, 2000.

参考文献2:寺澤芳雄: 英語語源辞典(縮刷版), 研究社, 1999.

私は良く上に紹介している本を参考文献として使っていますが、1つ目については、書名については賛同いたしかねます。
つまり、受験生が手にとっていい本の類ではないということ。
語源問題が出る上智の受験生だとしても、上智の受験生専用の問題集を使うこと。
どうしても読みたい方は、受験を終えてから手にとって下さい。2つ目も同じね。